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【書評】杉本星子, 三林真弓編『居心地のよい「まち」づくりへの挑戦 ―京都南部からの発信』【ひとことレビュー#1】


杉本星子, 三林真弓編『居心地のよい「まち」づくりへの挑戦 ―京都南部からの発信』Knit-K, 2023年. 書影
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ひとことレビュー #1

杉本星子, 三林真弓編『居心地のよい「まち」づくりへの挑戦 ―京都南部からの発信』Knit-K, 2023年.



京都市伏見に位置する向島ニュータウンが抱えているさまざまな問題を地域の課題として共有しながら、よりよい生活の場を構築していくための実践を、研究者や行政だけでなく、現場で活動している住民らとともに作った本。ニュータウンと呼ばれる場は、高齢者や障がい者、貧困層、外国人といったいわゆる社会の弱者が優先的に入居することによって社会の問題がより先取り的に、そして深刻に顕在化しやすい場所でもある。そこでの多様な活動と模索、展望などの多くは、他の地域の抱える問題とも響き合える一冊となっている。

(あるぼりーと) 

 
本書で紹介されているのは、高齢化などの課題が他の地域よりも一足先にあらわれると言われる、ニュータウンにおけるオルタナティブなまちづくりの実践だ。関心のある住民が誰でも参加できる形式のワーキンググループが問題解決の糸口になっている点が興味深い。中央集権的でない仕方での活動は、行政/住民、高齢者/若者、健常者/障がい者といった対立の固定観念を棄却し、住民ひとりひとりの生活に向き合いなおす契機になっているように思われる。実際、本書に掲載された各報告は、個別的なケースへの暖かいまなざしに満ち、立場の異なる人々の間のゆるやかな連帯の可能性を示しているようだ。

(壺)

 

京都市の南にある向島ニュータウンをフィールドにした、調査と対話とまちづくり実践がまとめられている。まちが誕生した当初から住む人と新たに住む人のゆりかごから墓場までが交差し、関わり合う事例は現代社会の縮図と呼ばれるようにニュータウンだけでなくわたしのすぐ近くにもあることではないかと思う。読後には近年、大規模工場の跡地に建てられる住宅群を中心とした都市計画によってできた「まち」が頭を過った。まちに来る者、住み続ける者、去る者とニュータウンとがどう関わり、歴史を重ねるのかは日本各地で注目されると共にわたしたちもその当事者の一人なのだということを感じるし、課題も山積みだけど楽しいまち暮らしも垣間見える。

(R)

目次

はじめに 杉本星子

1部 ベッドタウンは終の住処

 1 「向島まちづくり推進会議」--行政・住民・事業者・大学連携事業の試み 杉本星子

 2 京都市公営住宅の動向から向島ニュータウンを考える 竹口等

 3 超長寿時代のニュータウンにおける支援と介護について--向島地域包括支援センター長・阪内あゆみに聞く 西川祐子/阪内あゆみ

 4 ケアするまちの団地カフェ 田中聖

 5 京都市初・市営住宅グループホームという障がい者支援の挑戦 平田義/浅田将之

  コラム・多様な人たち誰もが関わり、主体となれるまちづくりを向島ニュータウンから 戸田幸典

2部 多世代の居場所をつくる

 1 子育て期の女性、子ども、若者のサードプレイスをつくる 三林真弓

 2 「藤の木子どもキッチン」そして「藤の木子ども食堂」へ 山内忠敏

 3 青少年の拠点づくり--向島ユースの挑戦 大下宗幸/長澤敦士

  コラム・「まちであそぶ」--中嶋農園イモ掘り体験 土井美奈子

 4 アートで障がい者と地域をつなぐ 馬場雄司

  コラム・ペルー系住民一家の物語 吉田哲史/杉本星子

3部 多様な人々をゆるやかにつなぐ

 1 オンラインがデザインする生活空間〜コロナ禍と障がい者の社会参加〜 吉村夕里

  コラム・障がい者の外出困難について 木村義男

 2 にじいろプロジェクト--シネマとトーク&ヒューマンライブラリー 黒多みなみ

 3 若者たちがつなぐ多文化--「日本語教室」と「グローバルクッキング」「バスケットボール」「向島文化の日」 大西喬太/松浦立樹

  コラム・「まちでつながる」コロナ下の向島まつり 大西喬太/松浦立樹

 4 中国帰国者の居場所作り 潘宏立

 5 巨椋池干拓地の農業とニュータウン 中島直己

  コラム 歴史駒札がつくる「向島」 上代眞廣/神門正和

むすびにかえて 杉本星子

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