明治末期に奈良県で生まれた一人の女性が、視力を失った後、稲荷の系譜となる白狐の白高と名乗る神の憑依を受け、オダイ(神が憑依し声を伝え、病を癒やす者)となり、大阪の天王寺で数多くの信徒たちの悩みに答え(それは株の売買まで!)、病を癒やし、欺瞞を暴いた宗教的実践を行い生きたライフヒストリーである。1990年代に亡くなるまで巫覡として神に仕え続けた一人の女性から、日本の民間信仰のリアルな息づかいと、憑依するということ、神と共に生きると言うことがどういうことであるのかが明かされていくのは圧巻である。このような世界が現代日本の都市部にも今なお息づいているのだと言うことに改めて驚き、同時に納得もする。ぜひ多くの人に読んでほしい名著だ。
(あるぼりーと)
目次
日本語版への序
プロローグ:一九八三年、大阪、天王寺区
1 玉姫の契り
大阪の玉姫社
2 ままならぬ世
失明後、お滝の道へ
3 村での神がかり
滝と狐 狐、稲荷と女系と
二重系譜の宿命
白高の荒々しさ――夫の死と父の怒り 出立
4 火と水、地と空
稲荷山の滝に打たれる夜
水の霊力
「三年の修行すれば、子供とともに暮らすようにしてやる」
5 仲立ちの世界にて
龍の尾と滝寺の道場
「私の旦那、白高さん」――神という存在
憑依の内と外
6 崩壊と繁栄の渦巻きのなかで
天神山と天王寺地区の歴史
玉姫を取り巻く株屋、芸者、政治家、そして戦禍を被る人々
七年半の嵐――炎と灰の雨
7 神と人の間の交換手
鳴護摩と紙天
信者宅での神降ろし
諸祈願、病気平癒、憑物落しのさまざまな祈禱
8 オダイはあと三年
オダイの継承とシゲノの一代記
あとがきにかえて
シゲノの後、果てしない歩み――
日本語版のために 解説『シラタカのお告げ』の現代的意義 (鈴木正崇)
参考文献
中井シゲノ年譜
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